041-満ち足りて。

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夫に誘われて、散歩に行った。
ほど良く田舎なこのあたりは、のどかな風景がひろがっている。
川沿いの道を歩きながら、夫が言う。
「この先に、涌き水があるんだ」
へぇ、長年住んでいるのに知らなかった。
なだらかに傾斜した林を下ると、小さな水源があった。
木々の間から木漏れ日がさして、私達を照らす。
きれいな場所だった。
雨の後で、少しぬかるんだ道をゆっくり歩く。
少し遅れる私の気配を察して、夫は必ず立ち止まって振り返ってくれる。
私達はこんなふうに歩調をあわせながら、いつも一緒に歩いてきた。
これだけは間違いない。
そう思った。
夫といる時間は、たとえれば凪みたい。
ただ静かで穏やかで、気持ちが癒される。

一年前のやり取りを思い出す。
「私、他の人としてもいいかな?」
「…だから、いいって言ってんだろ」
あれから私は、セックスする相手探しに夢中になった。
猪突猛進ってのも大袈裟だけど、とにかく必死だった。
当然だけど、夫が出かける時間に帰ってなかったり、
夫が休みの日に出かけていったり。
でも、夫は何ひとつ言わなかった。
そして、聞こうともしなかった。
夫らしかった。

以前、一緒に山に登ったときだったろうか。
夫は私にこう言った。
「俺は自分の人生に100%満足している」
私は、軽く腹がたった。
あなたはそうでも、私には心残りがありすぎる。
「私はそんなふうに思えないな、まだ今は」

でも、今なら言える気がした。
少し前を歩く、夫の背中に向かって。
「私、もう思い残すことないよ」
夫はちょっと振り返って、こう言う。
「そう、良かったね」

セックスしてくれない夫を、恨んだり、なじったり、
挙げく病気になり、暴力もふるった。
けど、今は素直に言える。

セックスの幸せを知らずに死にたくなかった。
それが18年のセックスレスで、私のただひとつの望みだった。
おそらく他人からみたら、馬鹿みたいな話だろう。
友人、出張ホスト、出会い系、
そしてSNSでのいくつかの出会い。
セックス好きの欲求不満な主婦が、男探ししただけのこと。
そんなふうに思われても、まぁ仕方ない。
でも、私にとってはどうしても叶えたかった願いだった。
本当に好きな人とひとつになれる幸せを、もう一度味わいたかった。
どうしても。
そして、かなった。

私と夫は稀なケースだろう。
男でも女でも、もう連れ合いとはしたくない、
もしくは相手を好きでも、セックスが好きでない、
そんな場合、他の人としてもいいと思えるだろうか?
私だって、もしセックスが好きでなくとも、夫が他の人とするのは嫌だ。
想像するだけで堪えられない。
だけど、夫はそうした。

いろんな取り方が出来ると思う。
私が身体に変調をきたすほどおかしくなったから、仕方なかったのか。
もともとが好きでないし、もうそのことで責められずホッとしてるのか。
私が明るくて元気なのが、一番と思ってくれているのか。
確かにセックスレスは、長い間私達の唯一の問題だった。
喧嘩のネタはいつもそこだった。
どんな言い争いも、最後はそこに行きついた。
でももう、それはない。

夫はずるいかもしれない。
セックスという、大切なつながりを放棄した。
自分がしたくないことを、他の男にまかせた。
そんなふうにも言えるかもしれない。
けど、彼は以前よりさらに私に優しくなった。
彼が出来る範囲でのスキンシップを、精一杯するようになった。
私が疲れていたり、へこんでいたりするときは、抱きしめてくれる。
時々甘えたくなくなって、べったりくっつく私を拒まない。

アツシさんや、ユウヤ君と出会ったことで、
改めて客観的に夫を見られるようになった。
私は四半世期以上、本当に夫しか目に入らなかったんだなぁ。
そして、夫と知り合ってからの人生のほうが、長くなってしまった。
50歳ってそんな年齢だ。

夫との恋は、20代のひたむきな恋だった。
親の反対やら遠距離やら、障害が逆にエネルギーだった。
一目惚れした自分の直感を、貫き通したかった。
〈早く一緒になりたいね〉
〈早く二人の子供が欲しいね〉
私の望みはそれだけだった。
そして、想いは実を結んだ。

もしも、夫との間に普通にセックスがあったら、
私は間違いなく、夫に一途だったろう。
たとえ年に一回だとしても、かまわなかった。
そういう人だから仕方ないと、笑って夫をみつめていたろう。
そのくらい、私は夫が好きだから。
くどいようだけど、世界中で一番好きな男だから。

だけど、私は新しい道を歩きはじめた。
自分で扉をこじ開けて。
ユウヤ君に出会った。
そして、大好きな男と、身も心もひとつになる幸せを知った。
今は夫のように、自分の人生に100%満足している、と言い切れる。

20年近いブランクを経てセックスをして、よくわかった。
セックスがどれほど必要だったか。
どんなにか求めていたか。
何も身につけない素のままの自分を、まるごとさらけ出せる幸せ。
繋がってひとつになって、一緒に感じあう幸せ。
肌と肌を密着させて、お互いの体温や肌触りを味わう幸せ。
手足をからませたり、擦り寄ったり、なめあったり。
ちょっとメタボ気味なユウヤ君のお腹を枕にしながらの、とりとめのない話。
みつめて。
触れて。
笑いあって。
言いようのない深い深い安心感が私を満たす。
目を移せば大好きな男がすぐ隣にいてくれるって、なんて幸せなんだろう。
今ならはっきり言える。
私はこんなにも、好きな人に触れたかったんだ。

ユウヤ君が私の願いを叶えてくれた。
だから私の人生は100%になった。
だからもう思い残すことはない。
なあんにも。

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040-閉経。

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そう言えば、ってのもおかしいけど、
私はいよいよ閉経したらしい。
もともと規則的にほぼ28日周期だったのが、
ここ一年あまりは、一ヶ月半だったり、月に3回も来てみたり。
そろそろなんだなぁ、と漠然とは思ってたけど、
ふと数えてみると、もう二ヶ月半ない。

最後の生理の、最後の日。
くしくもユウヤ君に会っていた。
身体を離した彼に
「アレ?赤いよ」
と言われても、一瞬なんのことかわからなかった。
意味がわかって、なんだかかなり恥ずかしかった。
もう、ほとんど終わっているから大丈夫だと思ってたのに。
でも、あれが私の最後の生理だったんだ。
11歳の夏から、40年近くあった、私がオンナな証。
最後を見届けてくれたのが、ユウヤ君だったのも、不思議な気がする。

更年期障害で一般的な、のぼせやほてりは、全く出なかった。
回りはこのケースが圧倒的に多い。
今更だけど、ネットで「更年期障害」をじっくり見る。
多分私は、自律神経が乱れて情緒不安定になるパターンだったみたい。
とにかく、どうしようもないくらい不安で苛立ってた。
今に始まった訳じゃない夫とのセックスレスが、猛烈に許せなくなって。
母親にいたっては、存在そのものが嫌になった。
彼女の姿、たてる物音、果ては洗濯物にさえ嫌悪した。

思い出せば3~40代の頃。
セックスのことで夫と言い合いになるたんび、捨て台詞を吐いたっけ。
「私の更年期障害がひどかったら、アンタのせいだからね」
でも、実際どんなふうになるかなんて、思いもしなかったし、
正直、更年期のことは漠然としか知らなかった。

改めて、一昨年の夏あたりからを振り返る。
最初は良く眠れなくなって。
食欲が落ちて、味覚が鈍ったり。
そして、自立神経がおかしくなって極めつけの過呼吸。
ここ半年くらいは、不意にものがダブって見えて。
床が傾いて見えて、立っていられないことも時々あった。
でも、気がつくとそれも最近はなくなっている。

心療内科へは、今も時々通っている。
といっても、薬を処方してもらうため。
アツシさんと知り合った頃から、だいぶ安定してきてたんだけど。
仕事をしてない間、一日中母親と顔を付き合わせていたら、
また自律神経が乱れ始めて、ひどいときには過呼吸が出た。
どうやら極度のストレスにさらされたり、たまってきたりするとダメらしい。
学校に通っていた頃にも、ふとしたことで一度、
新しい仕事について、不安と緊張で押し潰されそうだった頃も。
頭がぼーっとして、なんかヤバいなと思うと、どんどん息が荒くなる。
頭の芯も顔全体も、ジンジンと痺れがくる。
でもまぁ、なんとなく一番大変な時期は乗り切った気がする。
プライベートも仕事も。
今は自分の心身が、安定してるのが良くわかる。
ユウヤ君との関係が良好なのが、一番の理由だけど。
以前よりハードな仕事を始め、家事をしてくれる母親の存在も、有り難く思う。
なんか、少し前の自分と同じ人間なのかな?って思うくらい。
だから、保険みたいな感じ。
一日一錠だけ、精神安定剤を飲んで仕事に向かう。

「生理が終わる」
女の人100人いたら、100人それぞれに受け止め方違うんだろうな。
私は、一日でも早く上がって欲しかった。
以前に書いたけど、誰にも触れてもらえない身体なのに、
毎月オンナの証だけは来ることが、ただただ腹立たしかった。
別に重くて辛いわけでもなかったけど。
なんの意味もない、ただ厄介なモノ。
そんなふうにしか考えられなかった。
自然な身体のサイクルが、恨めしくて仕方なかった。

でも今は、ほんのちょっとだけ寂しい気もする。
当たり前だけど、もう子供とか産めないんだな。
だけど私の中の生理は、最後にがむしゃらに力を振り絞ったよね。
我慢してたものを全部爆発させて。
そして、自分で言うのもなんだけど、果敢に船を漕ぎ出して。
そして、心も身体もまるごと愛される幸せを知って。
十分に満足しきって、幕を閉じたんだろう。
そんな気がする。
多分。

生理のあるなしで言えば、私の「オンナ」は終わってしまったけど。
別の意味の「オンナ」としては、これからな気がする。
もう妊娠の心配のない今、私は私なりにセックスを楽しみたい。
20年近いブランクの分も。
リミットはあるけど、大好きな人と、いっぱいいっぱい触れ合っていきたい。
そう思う。

カテゴリー: diary | 16件のコメント

039-奇跡。

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近頃の私は、ネットの占いにハマってる。
年甲斐もなく。
でも、楽しくて楽しくて。
無料のところ、有料のところ、あれやこれやを覗いては、
ユウヤ君との相性占いをしてる。
そして、そんな自分が可愛い。

私達はめちゃくちゃ相性がいいらしい。
いわく
[出会った瞬間に、今までの恋は恋ではなかったと気づくでしょう]
[運命の鐘が鳴り響く間柄]
思わず苦笑いする。
でも嬉しくて何回も読み返す。
とりわけ当たってる!と思ったのは、
[ネットで知り合うような出会いもあり]
[お互いに強烈に惹かれあい、その日に身体を重ねることも]
[二人に限っては、共感や共鳴は後からついてきます]
なるほど。
相性率も94%。
そして私達の相性は
「遊戯から生まれる奇跡」
と名付けられていた。

ユウヤ君の会社は、私の最寄駅から少し歩いたトコにある。
そして私は、その駅から電車に乗って、長い間会社勤めをしていた。
もしかしたら、何度となくすれ違っていたかもしれない。
もしかしたら、同じ駅前の店にいあわせていたかもしれない。
でも、決してクロスすることはなかった。
だけどネットが、
私達を巡りあわせてくれた。

「奇跡」は本当に起きたのかもしれないな。
四半世紀以上も、こんな気持ちになったことはなかったのに。
こんな歳になってから、セックスの相手を探しはじめて、
回りから見ればとんでもない奴と言われても仕方ないけど。
もともと私は、好きな相手にはかなり一途だと思う。
だからこそ、ずっと迷わずに夫だけをみつめてきた。
長い間、指一本触れてもらえなくて、
もっと早くに暴走しはじめても、なんの不思議もなかったのに。
でもそれは、夫と出会ったときの気持ちに匹敵する出会いがなかったから。

だけど、また恋が出来た。
それもこんな歳になって。
ただ、若い頃の恋とは、少し違う。
歳を重ねた分、客観的にも冷静にもなれるし。
アツシさんで学んだせいか、のめり込んで苦しんだりはしてない。
お互いの連絡が数日空いても、なんの不安もない。

けど、やっと会えたかけがえのない時間が、
時折交わされる他愛なくて短いメールが、
「好き」と言う純粋な気持ちを結晶みたいに静かに育ててゆく。
神様がくれた、私の人生へのプレゼント。
ユウヤ君との恋は、間違いなく最後の恋だろう。
相手のすべてを、ただただ迷うことなく慈しみたい。
今はそんな想いだけ。

若い頃の恋は、結婚がとりあえずのゴールだろうけど、
私達には、そんなゴールはないし。
「続く」か「終わり」か。
そのふたつの道だけ。
そして、その「終わり」には、不意の事故や病気もあるだろう。
だけど、お互いの身になにかが起こっても、知るよしもない。
いつもと違って、返事のこないことに不安おぼえながら、焦れるだけ。
そして、何が起きたのかを知らないまま、
時間をかけて自分を納得させるんだろう。

だから。
少しだけ甘い想像をして、夢を語らせてほしい。
「お前とオレでさ、部屋借りよっか?」
「オレが2万出すから、お前1万出して」
そんな突拍子もない言葉がうれしくてたまらない。
「いまどき、そんな家賃のトコないって」
「そうかなぁ?」
そんなやり取りをするひとときを、ちょっとだけ許してほしい。
忘れかけてた恋する気持ちを、
あと残りわずかの人生で、
ちょっとだけ味わわせてほしい。
今日も冗談めかしたメールが届く。
『オレに惚れるなよ』
笑って返事をかえす。
『ゴメン、もう手遅れ』

リミットのある日々のなかの、
もっと具体的に言えば、一ヶ月のなかのほんの数時間だけ。
彼と過ごさせてほしい。
他には何もいらないし、望まない。
それさえあれば、私は生きていけるとさえ思ってる。
その日を手帳に書き込んで、カウントダウンして。
出会って過ごせた数時間を、大切な宝物みたいに反芻して。
そしてまた、次に会える日を数えはじめる。

神様、ありがとう。
決して長くない人生で、ユウヤ君に巡り会わせてくれて。
一緒に過ごす時間を与えてくれて。
ありがとう。

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038-願い。

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年末になると、発表される今年の漢字。
私もここ数年、自分の一年間を振り返って、相応しい漢字を考えてみる。
一昨年は「変」

言うまでもなく、今まで味わったことのない、ヘンテコな一年だった。
ふとしたきっかけから、長い間眠っていた性欲が目覚めて。
出会い系やら出張ホストやら、いきなりとんでもない暴走をして。
旧知の友人シュンにも、ありえないお願いしてみたり。
長年一緒にいても平気だった母親に、異常なくらい嫌悪して。
大好きなはずの夫に、殴る蹴るの暴力振るいまくって。
あげく、過呼吸で救急搬送。

改めて書いてみると、我がコトながらいったいなんだったんだろう?
更年期、と言ってしまえばそれまでなんだけど。
にしても、壮絶に「変」な一年。
でも、考えようによっては「変化」の年だったのかもしれない。

去年はやっぱり「逢」
ネットで知り合ったケンジさん、アツシさん。
その他もろもろの二度と逢うことのない人達。
そして、誰よりユウヤ君。
プラス四半世紀ぶりの学校で、新しい友人もたくさん得られた。
仕事を辞めたことで、久しく会っていなかった学生時代の友人とも逢えた年。
一昨年の「変」は、私を思ってもなかった方向に導いていった。
そして、たくさんの「逢」につながった。

今年はどんな一年になるんだろう。
春、私は51歳になった。

少し前だけど、アツシさんと付き合い始めた頃。
昼休みに、うっかりラブホのライターを出しっぱなしで一服していた。
向かいに座った20代の同僚が目ざとくみつける。
「わぁっ、行くんですか?旦那さんと?」
珍しいものでも見たように、突っ込んでくる。
旦那ではないけど、とりあえずうなずく。
「へぇ。ウチの親とかもう全然ですよぉ」
「アリなんですねぇ…」
変に感心される。
でも、無邪気な彼女の気持ちは本当に良くわかる。
私だって20代なら、同じことを言ったろう。
若い頃って、半径100mくらいで生きてるし。
50代に性欲があるなんて、想像だってしない。
と言うか、そもそも50代のことなんか考えたこともなかった。
だけど、いろいろ「アリ」なんだよね(笑)。

湯舟に浸かりながら、身体のひとつひとつをジッと眺めてみるひととき。
胸やお尻や、コンプレックスは多々あるけど、手はその中のひとつ。
昔から関節がゴツゴツしてて、指輪やマニキュアが全然似合わない。
まして今は、艶や張りがないのはもちろん、骨ばって静脈ばかりが目立つ。
当たり前だけど、10代の娘の手は本当にキレイ。
白くてふっくりと柔らかい、羽二重餅みたい。
気持ちよくって、羨ましくて、嫌がれながら時々触ってる。
でも、ユウヤ君はこんな手を褒める。
「お前、手キレイだよな」
「ホントに?」
「シミとかないし、スベスベじゃん」
お世辞を言わない彼のひとことは、小さな自信になる。

50代に入った私と、40代半ばのユウヤ君。
今はただただ、久しぶりの恋が楽しくて仕方ないのかもしれない。
それは毎日のように思う。
ちょっと前のドラマでも、私達世代の恋愛を描いていて、視聴率高かった。
若い頃ならまず考えることもなかっただろう、この歳での恋は格別に楽しい。
こんなにも、心弾むものだなんて思ってもみなかった。

でも、この恋が楽しいのは当然だ。
結婚してから、長い間こんな気持ちとは縁がなかったから。
行き交うメールも、待ち合わせの約束も、すべてが特別にきらめいてる。
そして、歳を重ねたことで、少しは恋愛偏差値も上がってるから。
お互いに分別もつくし、空気も読めるから、心地好い。
何よりそれぞれに家庭があれば、会えるひとときはただただ愛おしい。
そして。
一番には。
もう、私達には残り時間があんまりないから。

ユウヤ君とは、もう何回会ったろう?
正直な話、セックスは最初の頃のほうが、二人とも燃えていた。
パートナーとセックスレスという共通点で強烈に結び付いて、
ただただ切ないくらいに、それに没頭していた気がする。
でも今は、少し違う。
そんな気がする。

私はユウヤ君のすべてを覚えておきたい。
セックスしてるときに、悪戯っ子みたいに笑う表情も。
ミオ、と呼んでくれるその声も。
厚い背中の肩甲骨の感触も。
私の中にすべてをはきだしてくれる瞬間も。
ひとつ残らず、五感に焼き付けたい。
そしてユウヤ君にも、私を覚えていてほしい。
まとわりつくのが大好きで、いつもからみついてる足や。
握ると手に余る細い手首や。
横になったら、ペッタンコな小さな乳房や。
そして、ユウヤ君を受け入れる私の身体の中の温かさや。
すべて忘れないでいてほしいと思う。
切実に。
だって、いずれ消えちゃうから。

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037-桜。

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秋から冬にかけて、私は久々に学校通いをした。
資格を取って、次の仕事探しをするため。
そういえば、学校選びのときにアツシさんに相談したっけ。
今までとは、まったく畑違いの分野だった。
「まぁ、これが仕事に結び付くかどうかは、わかんないんだけど」
弱気な私に、アツシさんは強く言ってくれた。
「でも、やることは決して無駄にならないよね」
嬉しかった。
その言葉に後押しされて、なんとか資格も取った。

学校が終わった日、報告メールをしてみた。
《おかげ様で、なんとか資格取れました》
数日たって、返信が届いた。
《おめでとうございます》
《僕は、相変わらず仕事に忙殺されています》
《時々、ミオコさんのこと思い出してます》
《今日も信号待ちしながら、どうしてるかな?って、考えてましたよ》
アツシさんらしいきちんとした文章。
懐かしい。

でも、私は思った。
〈もう、会うことはないな〉
二人の間には、もうあの頃みたいな熱はない。
それが良くわかる。
アツシさんにとって、私はもう「過去」になっている。
そして私にとっても。

今はユウヤ君がいる。
相変わらずメールは速い、そして軽い。
この人は深刻な内容にも、決して真面目に返してこない。
相変わらずだけど、
《ちょり~っす》
だったり、
《今からヤリたい!》
だったり。
〈…あまのじゃくなヤツ〉
だけど、付き合っていくと良くわかる。
本当はめちゃくちゃ誠実な男。
でも、照れ屋で素直じゃない、可愛い男。

改めてユウヤ君のプロフィールでも見ようかと、SNSを覗く。
でも、いくら探しても見当たらない。
「止めたの?」
会ったときにそう聞くと、あさってのほうをむいて言う。
「…もう意味ねぇし」

新しい仕事に就いて、予定を合わせるのが難しくなってきた中。
約束の前日にメールをすると、
《明日雨みたいだし、オレはなんかオックー》
《え~、ほんのちょっとでも会いたいよ》
《じゃあ、5分(笑)》
こんなメールが行き交う。
でも、彼は絶対に時間を作って来てくれる。
たとえ、2時間足らずでも。

ユウヤ君の誕生日が近づいていた頃、プレゼントしたくて聞いてみた。
《なんか欲しいものある?》
小さくて目立たないものでも、贈りたかった。
こんな返事がきた。
《プレゼントはいらないよ》
《ミオはオレとセックスしてくれる、たった一人のヒトだから》
《それだけでいい》
ふざけたメールばかりなのに、不意にグッとさせる。

そういえば。
なぜだか今まで、「ミオ」と呼ばれたことは一度もなかった。
親しい友人は、だいたい「ミオコ」だ。
会社では当然「〇〇さん」だし、ママ友だと「アサミママ」だし。
そして夫は結婚以来、何年も名前を呼んでくれない。
恥ずかしいとか、照れ臭いとか、そんなことらしいけど。
でも、本当は名前を呼んでほしかった。
触れてほしい、と同じくらい、私にとっては切実な願いだったかもしれない。
ユウヤ君はほとんどお前呼ばわりだけど、抱き合っている時は「ミオ」と呼ぶ。
世界中で私をそう呼んでくれる、たった一人の人。
彼にそう呼ばれただけで、濡れてくる。
耳元でささやかれただけで、イキそうになる
名前を呼ばれるって、こういうことなんだ。

最近、ユウヤ君との関係は少しずつ変わってきている。
この前は、ホテルを出てからユウヤ君の買い物につきあった。
二人が住む町から少し離れた、人目を気にしなくてすむ繁華街。
じゃれあって、くだらない冗談言い合いながら、品物を見てまわる。
彼のオススメのラーメン屋さんで、並んでラーメンをすする。
なんだか、おかしいくらいに二人ともはしゃいでた。
付き合いはじめて間もない、若い恋人同士みたい。
何年もの間忘れてた、そんな気持ちがただただ嬉しかった。

ユウヤ君も、いつもと違う顔を見せる。
歩きながら、ふいに言う。
「あれ、桜だよね」
「そうだね」
指差す彼方に、桜の木があった。
街中にぽつんと一本だけある、散りぎわの桜。
それに気づいてくれた彼にも、今二人で眺められるほんの一瞬にも、
なにもかにも感謝したかった。

私は今、とてつもなく幸せなのかもしれない。

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036-未来。

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寝っころがってAV見ながら、ふと聞いてみた。
「誰かを好きになって、泣いたことある?」
私はアツシさんのメールで、ボロボロ泣いた自分を思い出していた。
「あるよ」
「いつ?」
「10代の頃」
一見酷薄そうな彼から、意外な返事がかえってくる。
「私、この前彼からのメール途絶えたとき、
ご飯が喉通らなくなっちゃってさ」
「諦めてた頃にきたメール見たら、泣いちゃった」
「…俺も高校んとき、フラれて飯食えなくなった」
「親も心配するくらいでさ」
ユウヤ君がぽつりぽつり昔話をする。
私は10代の彼を想像してみた。

「お前もうちに帰れば、お母さんで、俺も親父で」
「だからお互い家庭のあるヤツの恋は、本気にならないことが一番大事」
「お前が飯食えなくなったのは、本気入りかけてたからだろ」
いつになく、彼は話し続ける。
「既婚者の恋愛は、こうして時々会って気持ち良くて、
それでオシマイにしないとね」
「そっかぁ…」
「だろ?お前まだまだなんだよ」
そう話すユウヤ君の横顔を、私はじっと見ていた。
この人は、私なんかよりずっとずっと傷つきやすい人なんだな、多分。
ぶっきらぼうな中に、繊細なものいっぱい抱えてる。
なんだか。
愛おしさが増してくる。
ギュッと抱きしめたくなる。
言われたように、今度は上手に大人の付き合いが出来るかな?
でも、ユウヤ君は会うたびに魅力を増してゆく。
一見クールな外見から、どんどん溢れて来る優しさに惹かれてゆく。

何度目かには、初めて街中のファッションビルの前で待ち合わせた。。
二人で忘年会しよう、という彼の提案で。
でも、ホテルでしか会ったことのない私達に、
こんなふうにパブリックな場はなんだかこそばゆい。
居酒屋のテーブルに向かい合って、改めて照れる。
ユウヤ君はお店のスタッフに、
「今日のオススメって何?」
と楽しげに聞いている。
そんな態度も、すごく自然で感じいい。
お箸の使い方がすごくきれいなのにも、ちょっと驚いた。
どうしよう。
どんどんポイントが加算されてゆく。
タクシーでラブホに乗りつける。
もちろんこんなことは、生まれて初めてだ。
程よく酔っ払った私達は、いつもより淫らになる。
今日で何回目になるんだろう?
会うたびに、身体の相性はますます良くなる。
私も自分の中に潜んでいた、とてつもない性欲に目覚めてく。
もっと欲しい。
もっと感じたい。
休む間もなく、二人で絡み合う。

「もっと早くに出会えてたら、結婚してたかな?」
ユウヤ君が、ぽつりと聞く。
「してたんじゃないかな」
そんなやり取りが、素直に嬉しい。
会うたびに「好き」が増えていく。
表面は軽さを装っているけど、
アツシさんと同じく、昭和な男なのもわかってきた。
自分の稼ぎで家族を養って。
いざというときには、身体を張って家族を守って。
それが当たり前だと思ってる、芯は古風な男。
私は、当たり前のようにフルタイムで働いてきたけど
そんなふうに思う男は嫌いじゃない。
思わず口に出して言いたくなる。
「私達、出会えて良かったね」
ユウヤ君も、素直に返す。
「んっ」

お互いの連れ合いのことは、あまり話さない。
子供の話はしても、暗黙のルールみたいな。
ただいつだったか、独り言みたいに彼がつぶやいたことがあった。
「可愛いとか、きれいとか、そんなんで結婚ってするもんじゃねぇな」
私はなにも言わなかった。
けど、最初に感じたように、私達は同類だと思う。
そして彼の奥さんも、私の夫と同類なんだろう。
相手のことは大切に思ってる。
けど、セックスは好きじゃないし、したくない。
なんとなくわかる。
「俺、お前の話聞いて、男でもそういうのあるんだって、わかったよ」
そんなことも言っていた。
でも、私達はセックスしたい。
心だけじゃなくて、身体も触れ合いたい。
裸で抱き合っているだけでも、この上ない幸せを感じる。
そして、ひとつになれる瞬間に、生きてる幸せを感じる。
けど、パートナーはそれを望まない。

「歳をとったら、一緒に暮らそ」
ちょっとだけ本気で言ってみる。
「うん」
ユウヤ君が笑う。
シアワセになる。
けど、
今は駄目。
今は無理。
お互いの子供も、まだ大人になっていない。
そして、パートナーに愛情もある。
でも。
いつか。
子供達が大人になって、こんな関係も理解してくれたとしたら。
そして、パートナーとの関わりを考え直す時期が来たら。
人生の最後を二人で過ごしてるかもしれない。
夢物語なのはわかっている。
でも、そんな未来を想像するだけでも、歳をとるのが楽しくなる。

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035-至福。

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一週間とたたないうちに、またユウヤ君に会った。
私をみつけて、ニヤッと笑う。
まだ二回目なのに、二人の距離は一気に近づいてる。

メールはチャラくて軽いけど、会ってるときの彼は、案外寡黙だ。
何も言わずに、私の様子を見ながらセックスに没頭する。
アツシさんとは、全然違う。
彼は、私の身体を褒めたり、自分の気持ち良さを、口に出して言ってくれてたけど。
ユウヤ君は、黙々と作業に打ち込む感じ。
〈…なんだか職人みたい〉
でも、それがかえって静かな興奮をあおる。
一回あっただけなのに、私の感じる部分を、的確に探りあてる。
〈このヒト、すごく学習能力ある〉
いったいどうして?と思うくらい。
こういうことって、あるんだ。
ほんの軽い気持ちでネットで探した相手が、
今まで感じたことないくらいの快感を与えてくれる。
〈セックスって、こういうものだったんだ〉

中途半端な私に、彼のドライさは救いだった。
なんとなくだけど、すごく割り切ってるみたいな。
「一号さんとは、いつ会うの?」
「…今週末、仕事入らなければ」
「ふうん」

最近は、仕事やら体調崩したやらで、なかなか会えなかった。
〈やっぱり飽きられたのかな〉
〈こんなふうに、フェードアウトしてっちゃうのかな〉
ユウヤ君は申し分ない相手だ。近いし、すぐに会える。
メールの返信にやきもきすることもない。
会うたび、彼の良さがわかってきてる。
正直、気持ちはどんどん傾いてゆく。
でも多分、今はその時期じゃない。
決してアツシさんを忘れたわけじゃない。
ただ、、メールはますます間遠くなってる。
そして、最近の彼には以前の溌剌さが感じられない。
《なんだか、いろんなことが憂鬱に思えて》
《今は、ミオコさんの彼氏でいる気持ちのゆとりが持てなくて》
そんなアツシさんに、何通もメールを書いた。
会えない間、寂しくてたまらないこと。
今のアツシさんを案じていること。
そして、ユウヤ君のこと…。
もちろん送れない。
送信ボックスに、未送信メールがたまってゆく毎日だった。

帰り支度しながら、ユウヤ君が聞いてくる。
「お前んちのメシ、今日なに?」
「う~ん、寒くなってきたし鍋でもしようかな」
「そっ」
おんなじような会話を、アツシさんともしたことを思い出す。
「ミオコさん、今日の晩御飯なに作るの?」
「チャチャっと、豚の生姜焼きとキャベツたっぷり」
「いいねぇ」
思い出して一人で笑う。
アツシさんとも、ユウヤ君とも、食卓をともにすることはありえないのに。
同じ場所に帰ることは、決してないのに。

アツシさんと会う予定だった日。
遅い時間に、唐突にユウヤ君メールがくる。
《今日は一号さんと気持ちよかったのかな?》
《調子悪いみたいで、会わなかったよ》
《あ~、そう》
あれ?
なんだかこの人、ちょっとキャラ違うのかな?
急に可愛く見えてくる。

三度目にユウヤ君と会ったとき。
この日の彼は、意表をついて私を攻めてきた。
スリップを着たまま湯舟に入れられて、彼の上に仰向けにされて。
背中越しに、乳首とクリトリスを執拗にいじられて。
閉じようとする両足は、そのたび浴槽の縁に乗せられてしまう。
小島のように浮かぶ部分からは、恥ずかしいくらいに潮が吹き出て。
快感とのぼせで、上手く立つことも出来なくなった。

ベッドに移ってからも、彼は手を休めない。
じっくりと焦らしながら、私の中に入ってくる。
やみくもに突いてくるようなことは、決してなくて。
私はあたたかな彼を、全身で感じる。
この前、私がその瞬間が好き、と言ったのを、ちゃんと覚えていてくれてる。
嬉しかった。
二人の身体がつながっているだけで、途方もなく満たされる。ただただ幸せだった。

唐突に思った。
この人と私、相性がいいんだ。
思わず、つぶやいた。
「このまんま、死んじゃってもいいな」
ユウヤ君も笑って、初めて口を開く。
「だな」

長い間、切望していたもの。
本当に好きな人との、身も心もひとつになるようなセックス。
このまま死んじゃうのは嫌だと、一年半以上ももがきまくって。
でも、今わかった。
こういうことなんだ。
彼の身体の重みも、肌も、体温も、息遣いも、
すべてが愛おしかった。
この幸せを知らずに、死んじゃわなくてよかった。
私、間に合った。

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034-カルイ。

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「今まで何人くらいと会った?」
ユウヤ君がごく普通に聞く。
「…5人」
正直に答える。
「あっそう。オレも5人」
なんだか、やたらに軽い。
「そんなかで継続してる人は?」
答えにくいけど、ここは嘘ついちゃいけない気がした。
「一人…」
「そっ。別にオレ、2号でかまわないから」
サラっと言う。

ネットでの出会いに、慣れてる人なんだろうな。
彼は、変わらぬ調子で話を続ける。
「この前まで付き合ってた54歳の人に、
孫の面倒みるから、もう会うヒマないって言われてさ」
孫?
思わず、笑った。
でも、私達の世代なら十分にある話だ。

ユウヤ君は、とにかくノリが軽い。
なんだか、初めて会った気が全然しない。
かなりいろんな女性と遊んでるみたいだから、思い切って聞いてみる。
「女の人って、いくつくらいまでセックス出来るのかな?」
ユウヤ君は笑って即答してくれる。
「オレ、もっと若い時に60歳のヒトと付き合ってたし」
「なんの問題もなかったよ」
「オマエが60になっても、オレ55だし、楽勝じゃない?」
この人、今日会ったばっかりで、あと10年保証してくれるわけ?
なんか、ものすごく嬉しかった。

やがて、彼が私に触れはじめる。
初めのうちは、反応を見ながら注意深く。
やがて、かなり大胆に。
私はそんなに経験あるほうじゃないけど、
間違いなく、この人はセックスがうまい。
若い頃から相当遊んでて、オンナの扱いも、おてのもんなんだろうな。
そして、今までもこんなこと、数え切れないほどあったんだろう。
けど、それが今は気楽で心地良かった。
でも、なんていうんだろ?
この人、めちゃくちゃ軽いけど、同じくらい真面目な人かもしれない。

アツシさんのことは、頭になかったわけじゃない。
でも、言い訳がましいけど、あまりに会えなさすぎる。
それに好きすぎて。
恋愛がしたかったわけじゃないのに、お馬鹿な私は一途になりすぎて。
そんな煮詰まった気持ちを、撹拌してくれるには、
ユウヤ君はもってこいの相手だった。
ルックスもいいし、声もいい。
そしてこれだけセックスも上手かったら、女の人には不自由しないだろう。
酷薄な感じが魅力的なオトコ。
「なんかさ、ユウヤ君ってヒモが似合いそう」
思わずそう言うと、
「良く言われる」
と一言。
スナックのおネエさんとかに、すぐ言いよられるタイプだな。
いろいろ聞いてみたかったけど、なにしろ今日初めて会った相手だし。
でも、このヒト、興味深い。

翌日から、私達は日に何度もメールのやり取りをした。
自分も返事が遅いとイヤ、と言い切る彼は、仕事中以外はやたらにレスが早い。
一緒にいて、会話するみたいに、ポンポンとメールが行き交う。
「今、何してんの?」
「お昼寝」
「オナニー?」
「…お馬鹿」
多い日は50通くらいもやりとりしたかもしれない。
なんだか私達、高校生みたい。他愛ないやり取りが、楽しくて仕方ない。

近場で会社の飲み会があるときは、ひっきりなしにメールが来る。
「やりてぇ~」
「出てきてよ」
聞き分けのない、駄々っ子みたいなヤツ。
仮にも主婦が、日付変わる時間に出ていけるわけないだろ。
でも、気持ちは弾む。
〈なんだか、サカリのついたワンコみたいな人だなぁ〉
でも、いやらしいとかは全然ない。
なんか、憎めなくて可愛い。
いろんな男の人がいるんだなぁ。
夫に出会う前の20代の頃も、何人かとは付き合ったけど、こんな人は初めて。

以前は、ほぼ毎日アツシさんにメールしていたけど、
それも負担になりそうで、間隔を空けている。
退院以来、返事は途絶えがちになっている。
忙しいのもあるけど、自分の体調に不安抱いたり、
周囲の親しい方が亡くなったりが続いているらしい。
元気がない。
メールでは、私にあやまるばかり。
そんなこと気にしなくてもいいのに。
でもどんどん気落ちしてゆく感じで、心配でたまらなかった。
私はズルイかな?
そう思う気持ちは絶対にあるのに、ユウヤ君の誘いにときめいてる。
「今日はヒマ?」
「ヒマだよ」
「会える?」
「会いたい!」

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033-ユウヤ。

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《いろいろ心配かけました》
《やっと退院して今日から出社です!》
アツシさんから、朝早くメールが届いた。
〈良かった。無事に職場復帰なんだ〉
でも、休んでいる間に当然仕事は溜まっているはず。
多分、退院早々、仕事に追われるんだろうな。
とりあえず、今は会いたいなんて言える状況じゃないな。
それに今までも、正直なところなかなか会えなかった。
日程が合わなかったり、彼が風邪で延期になったり。
アツシさんに見てもらいたくて買った服も、気がつくと着る季節を逃してた。
付き合い始めた頃は漠然とだけど、月に2回くらいは会えるもんだと思ってた。
でも、一ヶ月半とか平気であく。
今回も会えなくなって二ヶ月近くがたとうとしてる。
せめてメールだけでも、一日に何回かやり取り出来れば安心するけど。
今はそれどころじゃないよな。案の定、メールの返事も間隔があいてきた。
忙しく仕事こなしてるだろうアツシさんを思うと、不満も言えなかった。
ただ、
《身体を大事にして、無理はしないでね》
そう言うしかない。

ふと、考える。
そもそも私は、何を望んでるんだろう?
時々会って、セックス出来る相手が欲しかった。
もちろん、私も好きになれる人柄で。
でも、恋じゃないんだから、もっと軽い気持ちで会える人。
どのくらいが適当かと言われると困るけど、月に1,2回くらいは会いたい。
けど、アツシさんと次に会えるのはいったいいつになるんだろう?
久しぶりにSNSにアクセスしてみる。
本当に軽い気持ちだった。
平日にヒマしてる人とか、いないのかな?

…いた。
最初にアツシさんのプロフィールを読んだときみたいに、ピンときた。
たいしたことは書いてない。
好きなスポーツやら、好きな食べ物やら。
ただ、その合間にそっけなくはさまれた言葉が、私を引きつけた。
〈ケッコンってナニ?〉
直感が告げる。
この人は、誰かを必要としてる。
ユウヤ君、5歳下。

今でも覚えてるけど、午前10時くらい。
メッセージを送る。
《今、失業中でヒマしてます》
《時々、メッセージやりとり出来たら嬉しいです》
返事はすぐ来た。
《ありがとう》
《ときに、浮気したことありますか?》
なんだか、単刀直入だなぁ。
驚いたけど、素直に答える。
《ありますよ》
返事は、また早い。
《今日、会えますか?》
結局、慌ただしく写メのやりとりをして、午後に会うことになった。
写メの印象は悪くない。
聞いてみたら、同じ沿線のいくらも離れていないところに住んでいるらしい。
二人の中間の駅で待ち合わせることにした。
何人かと会ったけど、その日のうちにはさすがに初めてだった。
でも、なんでかな?
なんの迷いもなく、会おう!と思った。

「寒くね?」
今でも覚えてるけど、これがユウヤ君の第一声だった。
メールで赤いニットのワンピースを着ていくと伝えてあったので、
私は上着を脱いで待っていた。
「大丈夫」
そんなふうに、答えた気がする。
彼はろくに話さないまま、歩きだす。
黙って、後をついてゆく。
写メよりは、かなり感じが若い。
無口でかなりぶっきらぼう。
でも、この人悪くない。

ホテルに入って、ソファーに並んで腰掛けながら、しばらくは話していた。
なんせ、お互いをほとんど何も知らない。
既婚、お子さん二人、ずっと同じ会社に勤めてるらしい。
奇しくも、同じ年に結婚していた。
そして、5,6年セックスレス。
私も18年のセックスレスと、去年からの一連の流れを説明する。
夫との夏祭りの一件も話した。
夫に言われた言葉も。
「大袈裟じゃなくて、突っ伏して泣きたくなっちゃった」
笑いながら話す。
そのとき、横に座っているユウヤ君が、改めて私を見てこう言った。
「そっか…」
そのとき、私は思った。
この人は、本当に共感してくれてる。
今で、何人にもこの話はしたけど、彼は本当にわかってくれてる。
飾り気のない短い言葉だけど、深くて、あったかかった。
同類なんだ。
私達。

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032-涙。

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今までも1日くらい返信がないことはあったけど、
3,4日が過ぎるとさすがに不安になってきた。
最後にやりとりしたメールを何回も確認する。
《今日は用事があって、アツシさんの住んでるあたりまで行ってきました》
《いつも、この辺りにアツシさんがいると思うだけで、嬉しかった》
アツシさんの返事も、
《なんか、自分の生活圏内にミオコさんがいたんだなと思うだけで嬉しい》
《帰り道、このへんを歩いたのかなぁ、って思いながら走りましたよ》
今まで通りの、むしろ関係が安定してきた二人のやり取りだったのに。
最後に会ったときも、いつもの優しいアツシさんだったのに。

この頃やたら忙しそうだったから、体調崩したのかな。
この前も、具合悪くて早退したって言ってたし。
でも、がむしゃらに無理するタイプだし。
職場でのポジションも重要になってきたようなこと言ってた。
けれど、一抹の不安がぬぐえない。
もしかしたら、私の気持ちが重荷になったのかな?
気をつけてはいたけど、一途になりすぎちゃった?
でも、嫌になったときはキチンと伝えてね、
私はいつもそうお願いしてあった。
何よりアツシさんの性格を思えば、こんな終わり方はする人じゃない。
だけど思った。
万が一にも、アツシさんになにかあっても、私は知ることも出来ない。
ネットで知り合っただけの、時々会ってセックスするだけの間柄。
頭ではわかっていても、実際に連絡が途絶えると、こんなにも苦しいんだ。
《なにかあったの?心配してます》
二度ほど送ったメールにも返事は来ない。
気づいたら、食事が喉を通らなくなってしまった。
夜もそのことばかり考えて、眠りにつくことが出来ない。
少し前に、仕事を辞めて時間を持て余していたのも良くなかった。
考えてみると、私は彼の携帯番号も知らない。
仕事先の電話は調べることは出来たけど、さすがにそれは勇気が要った。
電話をして普通に出勤していたら、それはイコール終わりってことだから。
考えに考えて、本当に最後のつもりでメールをした。
《どういう返事でも大丈夫だから、最後に一言メール下さい》
意を決して送ったあと、気持ちは少し楽になっていた。
このままじゃいけないよね。
久しぶりに、キチンとお味噌汁を作ってお腹に入れた。
服を選んで、お化粧して、買物に出かけた。

〈もしかしたら、生まれて初めて男に捨てられたんだぁ〉
改めて考えてみる。
若い頃はと言えば、片思いで玉砕のパターンばっかりだったし。
なんとなく成り行きで付き合った相手とは、終わりがきても何も感じなかったし。
で、自分が心底好きになった相手とは、幸せなことに一緒になれたし。
だから、私は惚れた男に捨てられたことなんかなかった。
それがまさか、50過ぎてからこんな思いするなんて。
でも、考えているうちになんだか笑えるようになってきた。
この歳で、こんなにも惚れ込んで、こんなもに辛くって。
だけど、こんなふうに想える相手に出会えただけでも、幸せかもしれない。
気持ちが、ずいぶん前向きになってきた。
アツシさんと出会えてから、私の毎日は輝いていた。
いつだったか、待ち合わせの場所に急ぐ駅前で、
映画のエキストラをやりませんか?と声をかけられた。
時間がないからと断ったけれど、とても素敵だったので、と若い男の子に言われた。
もちろんお世辞だろうし、悪質なキャッチだったのかもしれない。
でも、アツシさんに会える喜びでいっぱいだったあのときの私は、素敵だった。
間違いなく、素敵だった。
そんなことを思い出しながら、冬のジャケットやニットを買って。
なんだか、久しぶりにいつもの私に戻った気がした。
〈アツシさんと知り合えただけでも、良かっんだよね〉
そんなふうに思えるようになってきた。
〈いい歳していつまでもみっともないし、踏ん切りつけよう〉
大分、気持ちの整理がついてきた。

そんなふうに考えた日に、アツシさんからメールが来た。
久しく聞かなかった、アツシさんのメールの着信メロディが鳴ったとき、
心臓が止まるくらいビックリした。
《すみません、過労でぶっ倒れて入院してます》
《ずっと連絡できなくてごめんなさい》
《ミオコさんを心配させちゃったよね》
開いた途端、涙がこぼれて携帯の画面を濡らした。
後から後から涙が溢れて止まらない。
良かった。
本当に良かった。
アツシさんは生きてる。
入院してただけなんだ。
嫌われたんじゃなかったんだ。
ちゃんと私にメールくれた。
良かった。
本当に良かった。
いくらでも涙が出てきた。
こんな涙、いったい何年ぶりに流しただろう。
私、まだこんな気持ちで泣けるんだ。

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