《いろいろ心配かけました》
《やっと退院して今日から出社です!》
アツシさんから、朝早くメールが届いた。
〈良かった。無事に職場復帰なんだ〉
でも、休んでいる間に当然仕事は溜まっているはず。
多分、退院早々、仕事に追われるんだろうな。
とりあえず、今は会いたいなんて言える状況じゃないな。
それに今までも、正直なところなかなか会えなかった。
日程が合わなかったり、彼が風邪で延期になったり。
アツシさんに見てもらいたくて買った服も、気がつくと着る季節を逃してた。
付き合い始めた頃は漠然とだけど、月に2回くらいは会えるもんだと思ってた。
でも、一ヶ月半とか平気であく。
今回も会えなくなって二ヶ月近くがたとうとしてる。
せめてメールだけでも、一日に何回かやり取り出来れば安心するけど。
今はそれどころじゃないよな。案の定、メールの返事も間隔があいてきた。
忙しく仕事こなしてるだろうアツシさんを思うと、不満も言えなかった。
ただ、
《身体を大事にして、無理はしないでね》
そう言うしかない。
ふと、考える。
そもそも私は、何を望んでるんだろう?
時々会って、セックス出来る相手が欲しかった。
もちろん、私も好きになれる人柄で。
でも、恋じゃないんだから、もっと軽い気持ちで会える人。
どのくらいが適当かと言われると困るけど、月に1,2回くらいは会いたい。
けど、アツシさんと次に会えるのはいったいいつになるんだろう?
久しぶりにSNSにアクセスしてみる。
本当に軽い気持ちだった。
平日にヒマしてる人とか、いないのかな?
…いた。
最初にアツシさんのプロフィールを読んだときみたいに、ピンときた。
たいしたことは書いてない。
好きなスポーツやら、好きな食べ物やら。
ただ、その合間にそっけなくはさまれた言葉が、私を引きつけた。
〈ケッコンってナニ?〉
直感が告げる。
この人は、誰かを必要としてる。
ユウヤ君、5歳下。
今でも覚えてるけど、午前10時くらい。
メッセージを送る。
《今、失業中でヒマしてます》
《時々、メッセージやりとり出来たら嬉しいです》
返事はすぐ来た。
《ありがとう》
《ときに、浮気したことありますか?》
なんだか、単刀直入だなぁ。
驚いたけど、素直に答える。
《ありますよ》
返事は、また早い。
《今日、会えますか?》
結局、慌ただしく写メのやりとりをして、午後に会うことになった。
写メの印象は悪くない。
聞いてみたら、同じ沿線のいくらも離れていないところに住んでいるらしい。
二人の中間の駅で待ち合わせることにした。
何人かと会ったけど、その日のうちにはさすがに初めてだった。
でも、なんでかな?
なんの迷いもなく、会おう!と思った。
「寒くね?」
今でも覚えてるけど、これがユウヤ君の第一声だった。
メールで赤いニットのワンピースを着ていくと伝えてあったので、
私は上着を脱いで待っていた。
「大丈夫」
そんなふうに、答えた気がする。
彼はろくに話さないまま、歩きだす。
黙って、後をついてゆく。
写メよりは、かなり感じが若い。
無口でかなりぶっきらぼう。
でも、この人悪くない。
ホテルに入って、ソファーに並んで腰掛けながら、しばらくは話していた。
なんせ、お互いをほとんど何も知らない。
既婚、お子さん二人、ずっと同じ会社に勤めてるらしい。
奇しくも、同じ年に結婚していた。
そして、5,6年セックスレス。
私も18年のセックスレスと、去年からの一連の流れを説明する。
夫との夏祭りの一件も話した。
夫に言われた言葉も。
「大袈裟じゃなくて、突っ伏して泣きたくなっちゃった」
笑いながら話す。
そのとき、横に座っているユウヤ君が、改めて私を見てこう言った。
「そっか…」
そのとき、私は思った。
この人は、本当に共感してくれてる。
今で、何人にもこの話はしたけど、彼は本当にわかってくれてる。
飾り気のない短い言葉だけど、深くて、あったかかった。
同類なんだ。
私達。