お腹の皮がよじれるくらい大笑いしたり、
笑いのツボにハマっちゃって、突っ伏して笑ったり、
いったいいつ以来なんだろう?
待ち合わせの駅のホームに、ユウヤ君が現れる。
でも、まだ地元。
人目のあるところでは、おおっぴらに出来ないから、肩越しに彼を見る。
ニヤッと笑う彼と目が合った瞬間から、幸せが込み上げてくる。
私はとびきり上等な笑顔になる。
郊外のショッピングセンターに行こうか、と彼の提案。
電車の中はメールのやり取りだけだし、
「買い物中も密着厳禁な!」
なんて意地悪メールもらってても、平気。
「そんなとこで知り合いに会ったら、よっぽど運が悪いってことで!」
会話はしないけど、私が座って目の前に、ユウヤ君が立っている。
3人掛けの席で両脇の人は眠っているらしい。
ユウヤ君がヘン顔を始める。
志村けんか?みたいな顔を、あれやこれや私に見せる。
我慢しきれなくて、吹き出す。
顔をくしゃくしゃにして笑ってしまう。
そう。
ユウヤ君はいつも私を笑顔にしてくれる。
親父ギャグや下ネタを連発して。
耳がいかれてるのかと思うくらい、
よくまあ、そんなにも思い付くのかと感心するくらい、
しょうもない返事ばかりが返ってくる。
あんまり馬鹿馬鹿しくて、鼻で笑ったり、苦笑いしたり、吹き出しちゃったり。
「バ~カ」
あきれはてて、つい口にする。
ユウヤ君は、
「カ~バ」
と必ず返してくる。
…最初にこのやり取りしたときは、小学生か?と我ながら苦笑してしまったっけ。
私達、こんないい歳なのにね。
でも、いまや会ってる間に何度コレが行き交うことか。
入ったお店で、例によってユウヤ君は店員さん相手に、親父ギャグを連発する。
セクハラじゃん、とハラハラしながら見守ってしまう。
でも、この人って得な人だ。
なんか憎めない可愛さがあって、年齢関係なく好かれるみたい。
店のお姉さんも楽しそう。
「いつもこんな感じなんですか?」
と笑いながら私に聞く。
「…えぇ、ごめんなさいね」
けど、お姉さんも結構楽しんでくれているのがわかる。
結局バックを買ったのだけど、会計中も調子に乗ったユウヤ君は、
売り物のサングラスかけたりして、スギちゃんの真似したり。
「イケメンだから、なんでも似合いますよ」
なんて言われてご満悦。
そんなユウヤ君といると、私は嬉しいし誇らしい。
買い物ひとつとっても、絶対に偉ぶらないし、接してくれる相手を喜ばそうとする。
女好きで調子がいい奴とも言えるけど、
そんな彼と買い物してるとき、私がいつも感じるのは誇らしさかも知れない。
たとえわずかな関わりであっても、接してくれる相手を楽しませようとする人。
本人は意識してやってはいないと思うけど、コレってすごい。
そんな男を、たしなめたり、叱ったり、そんな立場が無性に楽しい。
楽しくて、楽しくて、仕方ない。
本当に月並みだけど、楽しい。
それしかいいようがない時間。
誰か知らないうちに、私達をフィルムにおさめてほしい。
遠くから、笑いあってる私達を撮ってほしい。
そしたら、会えない間はそれを繰り返し繰り返し見て。
そして、死ぬときには柩に一緒に入れてほしい。
こんなにも笑顔でいた私。
こんなにも幸せにあふれていた私。
だけどね。
不思議なんだけど、彼が私だけのものだったら、とは思わない。
嘘でなく、奥さんと別れて一緒に暮らせたら、とも思わない。
これは正直な気持ち。
ただ、ユウヤ君が一人になることがあったとしたら、
そのときは、何をおいても彼の側にいくけれど。
少なくとも今は、家族のために懸命に働いて、
お子さん達のことを楽しげに話してくれる彼が好きだ。
だけど、この幸せが怖くなるときもある。
楽しくて仕方ない時間が積み重なっていけばいくほど、
いずれ間違いなくくる別れが無性に怖くなる。
いずれ、どんな形にせよ、別れは避けられないけれども。
私達はなにかあったら、お互いに知らせはいくようにしてある。
ユウヤ君になにかあった場合は、彼の弟さんが教えてくれる。
私も2,3度一緒に飲んだことがある。
近くに住んでいることもあるけど、この年齢の男兄弟にしてはすこぶる仲が良い。
そして、私は母に頼んである。
以前に娘も交えて、テレビのドラマかなにか見ていたとき、
「ママも恋人とか作ればいいのに」
なぜか突然、母がそんなことを口にした。
おそらく、セックスレスでおかしくなった私を不憫に思ったのだろう。
母親の世代なら、夫婦でなにもないなんて考えもしなかったろうし。
それを聞いて、パパびいきの娘は、
「なんでそんなん必要なの?」
と、やたらムキになって怒っていたけど。
その後、いい機会だと思って母親に言った。
「…私、いるからさ」
「だから、なにかのときには知らせてほしい」
母はなにも言わなかった。
母親の携帯には、勝手にユウヤ君のアドレスを登録した。
まっ、今のところはそんな感じだけど、いずれは娘に頼むつもり。
恋愛経験無し、なら頼めなかったけど、今の娘なら多少はわかってくれるだろう。
だけど、私は絶対にユウヤ君より先に死にたい。
それだけは神様に聞きいれてほしい。
ユウヤ君になにかあったなんてメールも電話も、絶対に受け取りたくない。
幸いちょっと私がお姉さんだし、ひと足先にバイバイして、ユウヤ君を待っていたい。
そして、来世はも少し早めに出会って、二人の子供を育てられたらいいな。
一緒に過ごせる時間が、もっともっと長ければ嬉しいな。
今の気持ちはそんな感じ。
私は、私が歩んできた51年を後悔していないし。
夫にも娘にも、巡りあえてよかったと思ってるから。
そして多分、ユウヤ君もそんな気持ちだと思うから。