027-スタート。

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18年もの長い間、誰ともセックスしなかったのには、
当然だけどいくつか理由がある。
えっ?ホスト君としたじゃん、は、ちょっとおいといて。

ひとつにはやっぱり夫が好きだったから。
操をたてるなんて古臭いかもしれないけど、
夫に言えないことはしない、そう思っていた。
そして呑気な話だけど、いつかは出来るんじゃないか、とも思ってた。

ふたつめには、自分の容姿に自信がなかった。
浮気なんて、他人に見せられる身体の持ち主がするもんだと思っていた。
道を歩いていて、男に声かけられるようなヒト限定だと思っていた。

そして何より、どこでどう知りあえばいいのか、わからなかった。
思い詰めた去年の私は、出会い系サイトを覗いてみたり、
出張ホスト君に会ってみたりもしたけど、
なんだか懲り懲りしただけ。

だから、同じようにセックスレスに悩む人と話したくても、
どこで知り合ったらいいか、皆目見当がつかなかった。

けど、そんな鈍い私でも、ケンジさんとのやり取りで、
SNSは出会いの場なんだ!って気づいた。
ちょっと遅いけど…。

だとしたら、
そうだとしたら、
私は誰かに巡り会えるかもしれない。

夫は他の男としても良いと言う。
だったら、操は関係なくなるよね。

容姿も「この年齢にしたら…」をつけたら、なんとかなるかもしれない。
ホスト君や夫も褒めてくれたし、少しは自信持ってもいいのかも。
最近、ニーズは細分化しているらしいし、
ひょっとして貧弱な身体がタイプな人もいるかもしれない。

なんか、ひとつずつクリア?

本当は、付き合うほどに優しさの伝わってくる、ケンジさんが良かった。
私が仕事でヘマして落ち込んでいるとき、
熱っぽくて朝から寝ついているとき。
そんな時、ケンジさんはいつも暖かいメールをくれた。

その文章は、決して上手だったり気がきいていたりではないけど。
彼の素朴な実直さは、本当に嬉しかった。

ただ、残念ながら彼と会うのは難しい。

でも、私は誰かに抱いてほしかった。
私の望みはセックスをすること。
そして、セックスってこんなに幸せなものなんだって思うこと。

それを知らないで死ぬのは嫌だ。
このまんま、歪んだ憧れや、恐怖感、
自分に対するコンプレックスを抱えたまま死にたくない。

好きな人と愛し愛されて、
裸になっていっぱい抱き合って、
セックスって素敵なものなんだって、
それを知ってから死にたい。
知らないで、絶対に死にたくない。

〈近くに住んでいて、会いやすい人〉
〈やっぱり既婚の人?〉
毎日、通勤途中で妄想するだけで楽しかった。

ただ、やっぱりもう一度だけ夫に聞こう。
この前、夫はあんなふうに言ったけど、100%本心ではないのはわかる。

夫は、なんて答えるのだろう。
「今は出来ないけど、いつかはしよう」
「セックスは出来ないけど、その分抱きしめるから」

そう言ってもらえないのは、わかりきっているけど、
私が一番良くわかっているんだけど、
そう言ってもらえたら、どんなに嬉しいだろう。

くどいかもしれないけど、私は夫が好きだ。
今でも、仕事に出かける前にハグしてもらうと、無性に幸せになる。
私のささいな話に笑ってくれる横顔を見ていると、幸せに満たされる。
人間として、尊敬もしている。
学ぶべきところもたくさんある。

でも、セックスはしてくれない。
今までも、そしてこれからも。

夫が休みの土曜の夜、
私はもう一度聞いた。
最後に。

「私、他の人としてもいいかな?」

この前みたいな間はなかった。

「だから、いいって言ってんだろ」

口調は少し荒かった。

そうか…。
いいんだ…。

不思議だけど、解放された気がした。
この前みたいな、へこみはなかった。

そして、胸の奥からやる気が湧いてきた。

時間は限られている。
グズグズしてると、死んでしまう。

「よし、探そう!」


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