025-ケンジ。

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ケンジさんとの距離は、急速に近くなっていった。

データも増えた。
既婚で、お子さんが一人。
食品関係の仕事をしているらしい。
ただ、めちゃくちゃ忙しいようだ。
土日に出勤しているのも、決して珍しくはない。
働き盛りを絵に描いたような40代…。

写真を送ってもらった。
格好いいとは言えないけど、笑った目が優しそうだった。

私の写真も見たいと言われ、
四苦八苦して何枚も自分撮りをしてみた。
ドキドキしながら写真を送ったが、予想外に気にいってもらえたらしい。

ある時、ケンジさんがこんなことを言ってきた。
《ヘンなこと聞くけど、ミオコさんとこって、セックスとかありますか?》
突然の質問に驚いたけど、正直に答えた。
《ないですよ。それもビックリするくらい長く》
ケンジさんも打ち明けてくれる。
《ウチもずっとないです。そういうもんなのかなぁ》

それから私達は、セックスレスのことも話すようになった。
私も彼も似たような境遇。
パートナーとは、仲が悪いわけじゃないけどセックスがない。
そして、いつか会いたいね、そんな話になるのに時間はかからなかった。

《ミオコさんの住んでる街に遊びに行けたらいいなぁ》
《たいしたとこじゃあないけど、案内しますよ》
《そしたら、一緒にホテルに泊まってくれますか?》
《え~?泊まり?》

こんなやり取りが、楽しくて仕方なかった。

お互い、それがむずかしいことなのは百も承知だけど。
それでも、他愛がないこんな会話は、私をときめかせるには十分だった。

やっぱり私は、セックスがしたい。
〈セックスって素敵なことなんだ〉
心からその幸せを知ってから死にたい。
そう、しばらく眠っていた気持ちがまた目覚めてくる。

去年のホスト君との一夜が、人生最後のセックスだなんて。
そんなの悲しすぎる。
本当に心から好きな人と抱き合いたい。

夫とは、多分もう無理だろう。夏の騒ぎのあとは、少しだけ淡い期待もあった。
もしかしたら、また二人であのホテルに行けるかもしれない。
そしたら、今度こそうまくいくかもしれない。

けど、夫は何も言い出さない。
生活がすれ違ってるとか、母親が同居しているとか。
正直そんなのは、いくらでもクリア出来る理由。

夫は、あの夜一緒にホテルに行ったことで、
私の望みを彼なりに果たしたつもりなんだろうな。

ケンジさんとしてみたい。
お互いに、どんどんストレートになってゆく。
私を求めてくれるケンジさんの気持ちが、私の欲求を増大させる。

けど、実際には会うことはむずかしい。
正直、何度か日程を合わせようと試みたこともあった。
でも、お互いが仕事をしているうえに物理的な距離は、大きな壁だった。

そんなふうに悶々としている中、高校時代の友人達と久しぶりの女子会があった。

予約しておいた韓国風のお鍋が美味しい店にゆく。
メンツは4人、ともに既婚子有り。
それぞれに子供も成長し、2,3年前くらいからは、
また集まれるようになった大事な女友達。

程よく酔いも回った二軒目で、去年の夏からのことを話した。
今まで、私達夫婦が長くセックスレスなことは、話せないでいた。

でも、あまりにもいろんなことが起こりすぎ。
今は逆に、笑いを交えて話したい気持ちになっていた。
いい加減酔っ払っていたから、口も軽くなっていたのかもしれない。

今でも覚えてるけど、一人が急にマジになって、強い口調でこう言った。
「ダメだよ、ミオコ。
夫婦なんだから、せめて裸で抱き合うだけどでもしないと」
姉のように、いつも私を案じてくれる大好きな友人だった。

何日経っても、この言葉だけが頭にこびりついていた。
何回も何回も反芻した。

それは私自身が一番良くわかっていること。

私はセックスしたいんじゃなくて、夫と触れ合いたいんだ。
同じベッドで、裸で。
大好きな夫にぺったりとくっついて、甘えたいんだ。
そして、夫の体温を、心音を感じながら眠りたいんだ。

このままでは絶対ダメだ。
私はケンジさんに限らず、誰かを求めて暴走するだろう。
もう一度話をしてみよう、きちんと。
セックスっていう行為が嫌でも、この願いは聞いてもらえるかもしれない。

 

 


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