今思えば、シュンにはずいぶん支離滅裂なメールばかり送っていた。
《私と夫は25年ぶりに、もう一度恋愛やり直そうと思う!》
と、一人で盛り上がったり、
《私は夫の日だまり的愛情で生きてくよ》
と、自嘲気味だったり、
《やっぱり、青い鳥はお家にいるってことなんだよね》
と、ホスト君との一夜を暗に悔いてみたり。
シュンはそんな私をずっと案じていたらしい。
《今度またゆっくり、ミオコの幸せな話を聞かせてもらわなきゃね》
《遠慮なんかしないで、いつでも呼び出してくれよ》
優しいシュンはいつもそう言ってくれる。
けど、そう言ってもらえることに、あぐらかかないようにしよう。
そう思っていた。
でも、クタクタに疲れた仕事帰り、蒸し暑い夕刻。
人だらけの電車に揺られていると、気持ちが弱くなるときがある。
洗いざらい言いたい気持ちを抑えきれなくなった。
《やっぱりさぁ、どうしたって夫は変わらないみたい》
《確かに前に比べたら、スキンシップしてくれるようになったけど、
でも、そこから先はむずかしいね》
《…ホントはさ、この前会ったとき抱いて欲しかったんだぁ》
指は意思を持って送信キーを押す。
でも次の瞬間、我に返って猛烈に悔いる。
《なんか、ごめん》
《多分、ワタシ更年期の躁鬱症状だね、忘れて》
《さっきのメール共々、速やかに削除して下さいな》
でも、シュンはすぐにメールを返してくれる。
《そうか、やっぱり全然解決してなかったんだね》
《なんとなくそうじゃないかと思ってたのが、当たっちゃった》
《この前会った後のミオコのメールからは、空元気しか感じられなかったし》
隣にいるかのように、シュンがあたたかく話しかけてくれる。
携帯を握りしめたまんま泣いた。
優しい言葉のひとつひとつに、こらえ続けてきた気持ちがあふれだす。
《なんかかつてないくらい、私はヤバいんだ》
《身体も気持ちも、もう自分で制御出来ない》
《私に性欲さえなかったらこんなに苦しまなくてすむのに、
いったいどうしたらいい?》
吐き出し始めた言葉は、止まることを知らない。
《この前他の人としてみたけど、歪んだ憧れや罪悪感は消えない》
《49歳にもなって、セックスにこんな気持ちしか持てないのなんて、嫌なんだ》
《だからね、本当はセックスは素敵なモノなんだよって、教えてほしい》
途中駅で下車して、ベンチで泣きながらメールをした。
通り過ぎる人達が怪訝そうに見る。
《お願いだから、一度でいいから私を抱いて》
《そして、私の身体を覚えていてほしい》
シュンの返事が来る。
《抱いてほしいなら抱いてあげるし、
イカせてほしいならイカせてあげる、なんてね》
《でも、ゴメン。すぐにでも会いにいきたいけど、
お盆前にかたずけなきゃならない仕事が溜まってる》
《お盆明けには会えるから、大丈夫?》
《ありがとう。大丈夫》
私は返事をする。
とうとう言ってしまった。
でも、今度こそ私は救われる。
私を夫より長く知っていてくれるシュンに、一度だけ抱いてもらって、
そしたら後は悔いなく生きてけるに違いない。
そして、この夏の狂ったような気持ちにも決着がつけられる。
一ヶ月近くシュンに言えなかった言葉を
長い間、誰にも吐き出せなかった気持ちを、
やっと出せた安堵感で、私は長いため息をついた。
その日から、私はシュンに会える日を指折り数えた。
まるでその日がくれば、自分が生まれ変われると、固く信じているかのように。
気持ちは本当に久しぶりに、凪のような状態だった。
私は娘の学校がらみの用事やら、義母の一周忌やらを、こなしていった。
けど、その日が近づくにつれて、またもや気持ちがざわつき始める。
この選択は本当に正しいの?
見も知らないホスト君とセックスするのとは、訳が違う。
そして、
夫とは、本当にもうセックス出来ないの?
私の歩みよりが足りないだけなのかもしれない。
少しづつだけど、夫は変わってきてくれている。
もしも、もっとゆっくり時間をかけたら、
いつかは夫ともう一度触れ合えるかもしれない。
そう考えると、思いは急速に傾いていく。