012-タイミング。

娘のお泊りの日を、マサトさんに会う日に決めた。
半分賭けのような気持ちで。
この日がダメだったら、神様が反対してるってことで。

私は神様を信じてる。
もちろん、特定の宗教ということじゃなくて。
高いところから、いつも私達を俯瞰してくれてる神様。
人生が良い流れになるように、見守ってくれてる神様。

だから、日程合わなかったら、それは神様がその流れを止めようとしてくれてるってこと。

まぁ、こじつけと言われるかもしれないけど。

メールをしてみた。
希望の日時と場所、一緒にお酒でも飲んで話を聞いてほしい、と。

返事はすぐ来た。
その日、その場所、大丈夫とのこと。

〈会ってみろってことだね〉

文章もキチンとしてて、良い感じだった。

続けて写真も来た。
《あぁ、この人ならいいかも》
一目みて、そう思った。

誰かとセックスしないと死んじゃう病は、ますます悪化している。

無茶苦茶なことやろうとしてるのはわかってる。
道徳的じゃないのだって、百も承知してる。

でも、一回セックスして、こういうもんだったんだなぁと納得したい。
そう、たった一度、誰かに抱いてもらえれば、私はおとなしくなる。

会うまでに何回もメールのやりとりをした。

今だから思うけど、会うまでのこの期間が一番楽しかった。
マサトさんは期間限定の恋人になった。
相手は仕事だとわかっていても、他愛ないやりとりに心が躍りまくる。
待ち合わせの日を指折り数えた。

そう、携帯メールが普及した頃、私達の世代は30代の後半に差し掛かってたし。
こんなふうにメールでドキドキするなんて、実は初めてなんだ。

夫とのメールなんて連絡事項だけだし。
洗濯物取りこんどいて、とか、卵と牛乳買ってきて、とかね。

そして、カラッと晴れた夏の夜、私はマサトさんに会った。
中肉中背、チュートリアルの徳井君に少しだけ似ていた。

〈写真とはちょっと違う感じ?〉
〈でも、写真より真面目そうな感じ?〉

マサトさんが私の緊張をほぐすように言う。
「手つなぐ?」
「…うん」
歩き始めてつないだ手にビックリした。
〈手、小さいんだ〉

おかしなことに、今でもそれが一番印象に残ってる。

夫の手は、大きくて骨太でゴツゴツしている。
当たり前なんだけど、夫とはまるで別の手をもった人なんだなぁ。
私は長い間、夫以外の男の人の手を知らなかったんだ。

予約しておいた店に入り、私は夫との出会いから今にいたるまでを話す。
彼はなかなか聞き上手で、声も耳に心地好かった。

彼自身は、既婚でお子さんが一人。
奥さんは浮気をしているようで、あまりうまくいっていないらしい。
ホストは始めて、まだ数ヶ月。
ふうむ…。

意を決して、セックスレス歴18年を打ち明けた。
でも、マサトさんは別段驚かない。
「お客さんに、旦那さんと22年してないって人いるよ」
「22年?」
「モデルみたいに綺麗な人なんだけど、荒れて出会い系とかで片っ端からして、
身も心もズタズタになっちゃったらしい」
「で、もうセックスはしたくないって、俺は一緒に飯食って話聞くだけ」

あぁ、私とおんなじ思いしている人、やっぱりいるんだなぁ。

一通り話すと、彼が時計を見る。
「じゃあ、行こうか」

そっか、やっぱり今日行くんだね。
私は腹をくくった。


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