010-マサト。

去年の夏、私はただただ異常だった。

いったい、今までどこで息ひそめていたんだろう。
呆れるくらいの勢いで、欲望が溢れ出してきて、
それは、もはや自分では制御不可能なマグマみたいだった。

今思えば長い間、オンナの部分を必死に抑えていたんだろう。
世間的には、良い母、良い妻、そしてまっとうな会社員をこなしていた。

旦那に指一本触れてもらえない自分を、必死に隠すかのように。

でも、今、
誰かとセックスしなければ、死んでしまう。
今しなきゃ、このまま死ぬことになる。
そんなのは嫌だ。
絶対に嫌だ。

夜、一人で自分を慰めたあとも、眠れずにいつまでも考え続けた。

出会い系?
出張ホスト?

でも、18年もしてない49歳のおばちゃんを、誰が相手にしてくれる?
気味悪がられるに決まってる。

こっそり覗いたサイトにこんなことが書いてあった。
〈旦那に相手にされないおばちゃんなら、
股の間濡らして歩いてるから即ヤレるよ〉
〈いやぁ、でもオレはやっぱ無理〉
〈だよな~(笑)〉

自分のコト言われてるみたい。
悲しかった。

でも、そしたら誰とすればいいの?
もうすぐ50に手が届く、ずっとしてないオンナはこのまま死ぬしかないのかな?

今の私は、セックスしたい自分に罪悪感感じてる。
あまりにも長い間しなかったセックスに、恐怖感も感じてる。
そして、同じくらい強烈な憧れを感じてる。

そして何より、それらの気持ちが、全部歪んでいるのを知っている。

こんなのは大人の女として、間違ってる。
セックスをこんな目でしか見られない自分が、何よりも嫌だ。

このままじゃダメ。
でも、夫は多分変わらない。

プロは?

そう、お金を払って成り立つ関係。

もちろん、そんなことはしたことはない。
でも、男の人なら、奥さんに拒まれたら風俗に行くよね。
女もお金払ってしてもらうしかないじゃない。
そう、それしか手段がなかったら。

そうしないと今にも死んじゃいそうなくらい、
崖っぷちまで追い詰められてる私みたいな女は。
それしかないと思い込んでる女は。

なんでもない顔をして、毎日普通に仕事はしている。
職場では、よく夫の話もするし、
回りの誰もが、仲の良い夫婦だと思っているだろう。
そして、それは間違いじゃない。

けど、みんなは知らない。
休憩時間に、私が出会い系サイトや、出張ホストのサイトを、
夢中になって覗いていること。
お気に入りに登録してあるサイトもある。
だだし、アクセスはしたことはない。
一歩を踏み出せない。
保険みたいに時々開いて見るだけ。

中に一人、マサトと言う人がいた。
40歳の出張ホスト。
《だだ普通に会ってご飯食べたり、一緒にドライブしたり》
《一人では淋しいとき、気軽なパートナーとして使ってください》

あちこち読んだけど、私のテクニックで貴方を昇天させます、
が売りのホストに比べたら好感が持てた。
マサトは、なんか純粋さが残っているよな気がした。

毎日、プロフィールを開いて何回も見てみた。

会ってみようかな。


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