009-夫のひとこと。

通いあったかのようにみえた夫と私の気持ちだったが、
それは、ほんのつかの間のこと。

夫は毎日昼過ぎに電話をくれる。
仕事が終わって、うちに向かう途中。
共働きですれ違いの多い私達の、いつからかの習慣だった。

お昼休みだったので、電話に出た。
週末のお祭りの話。

「都合つく?行けそう?」
「アサミは大丈夫なのか?」
「…?」

アサミは私達の娘、高校2年になる。

「何言ってんの。高校生の娘が、親と行く訳ないよ」
私は笑った。

でも、夫はあきらかに落胆している。
私は努めて明るく言う。

「たまには二人で行こうよ」

すると、夫はこう言った。
「おまえ、ヘンなこと考えてんじゃないだろうな」

一瞬、何を言われたかわからなかった。
やがてその意味がわかって、言葉を失った。

夫は、私がこの前の続きをしたがっていると思ってるんだ。
二人きりになりたがる私を、そんなふうに思ってるんだ。

どんなふうに返事をしたか、正直覚えていない。
ただ、あまりにもショックを受けると、頭が真っ白になるって、
こういうことなんだと思った。

この前、私が久しぶりに幸せで満ち足りて、
涙が出るくらい嬉しかったあの時間を
夫はその先を強要されると危ぶんでいたのか。

電話を切る。

大袈裟でなくて一人きりなら、その場に突っ伏して、
大声出して泣きわめいていたと思う。

貴方は今、自分が何を言ったかわかってる?
どれだけ私を傷つけたのかわかる?

妻が夫に欲情したらいけないの?
長い間、言い聞かせて、堪えて。
貴方が大好きだから、こんなふうな触れ合いでも十分だと。
やっとの思いで自分に言い聞かせたのに。

貴方は、そんな目で私を見てたんだね。

仕事中だから、泣くわけにはいかない。
ましてや私の仕事は、人と接すること。
赤く泣き腫らした目で人前には出られない。
必死にこらえた。

夫は、自分の何気ない言葉が、私にとってはどれだけ衝撃的なものだったか、
今もわかっていないだろう。

でも、この一言が私を変えた。
そう思っている。

せっかく自分の中で折り合いをつけた気持ちが、ガタガタと崩れてゆく。
やるせなくて切ない気持ちは、前にもまして酷くなった。

不信感、不安感、焦燥感、絶望感。

情緒不安定になった私は、また無口になる。
夫は、何も言えない。

出掛けるのを待ち兼ねて、ベッドに横たわる。

自分に触れている瞬間だけが安心出来た。
もう誰にも触れてもらえないこの身体を、私が愛してあげなきゃ。
だって、もう誰にも愛してもらえないから。

またオナニーせずにはいられなくなった。
ある時、快感が極まりそうになる瞬間、水っぽいものが吹き出してきた。

コレって、もしかすると潮ってヤツ?
私は潮吹きって身体なの?

続けてやっていると、面白いように出てくる。

こういうの、男の人って喜ぶんだよね。
なんとなく、知ってはいた。

でもさ、普通はパートナーとセックスして、開発されるもんじゃない?
自己開発だなんて、笑っちゃう。

馬鹿みたい、私。
自分の身体のことなのに、この歳になるまで知らなかったなんて。
本当に馬鹿みたい。


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