051-傾斜。

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私とユウヤ君は本当に軽い気持ちで出会った。
このブログにも書いたけど、思うように会えないアツシさんに、
もう一人くらい探してみようかなぁ、というくらいのノリで。
ユウヤ君も同じだったろう。
ある日知らない女からSNSでメールが届く。
仕事は休みだし、ラッキーくらいのノリで。
ひらたく言えば、お互いの目的はセックスだけ。

以前にも書いたけど、初めて会った日に、
「お前ヘンなこと考えてんじゃないだろうな」
夫にそう言われた話をして、
「大袈裟じゃなくて、その場に突っ伏して泣きたくなっちゃってさ」
と、笑いながら話したとき。
隣に座るユウヤ君は、私をじっと見て、
「…そっか」
と、たったひとこと言ってくれた。
今でも思い出すけど、その一言を聞いたとき、
この人は、私の気持ちを本当にわかってくれてる、
痛烈にそう感じた。
短い言葉だったけど、それ以上なにも言わなかったけど、
でも、そのときから私は彼に惹かれてたんだろうな。

何度目かに初めて飲みに行ったとき、改めてその話をした。
「私ね、今まで何人かにあの話したけど、
ユウヤが初めてちゃんとわかってくれた、って思ったよ」
「どうして?…だって辛い話じゃん」
彼はむしろ不思議そうに返す。
アツシさんには言えなかったけど、出張ホストに会った話もした。
「…お前、そんなに追い詰められてたんだ」
彼の言葉のひとつひとつ。
短いし、余計な飾りもない言葉。
でも、あったかい。
あれから、季節は移り変わって、私達は二人の時間を積み上げてきた。

今まで何回か飲みにも行ったけど、
たいていホテルの前に軽く飲むだけだった。
でもね、この前、居酒屋でただただ飲んで話をした。
向かい合って、長い間たくさんたくさん話をした。

どうしてこの男はこんなに魅力的なんだろう。
少し酔って饒舌になる口調も。
髪をかきあげたり、タバコをくわえたりする仕草も。
「ミオ、コレ旨いよ」
そう言いながら、私の口元につまみを差し出してくれる。
そんなことされたことない。
恥ずかしいけど口をあける。
そんな私を、ホントに屈託ない笑顔でみつめてくれる。
ユウヤ君をみつめているだけで、はてしもなく幸せになってくる。

データもいっぱい増えてゆく。
友達とかたくさんいるんだ。
尊敬してて可愛がってくれる上司もいるんだ。
今でこそメタボ気味だけど、ずっとスポーツしてたんだね。

前にも少し話してくれたけど、昇格した仕事のストレスから、
心療内科にかかった話も詳しく聞いた。
3年も病院通いしてたんだ。
「だから、お前とおんなじ」
「デパスやハルシオンずっと飲んでた」
結構かかったね。
私も状況違うけど、おんなじ思いしたからわかるよ。

10代の頃、フラれてご飯が食べられなくなった話も、改めて聞いた。
以前、私が
「誰かを好きになって泣いたことある?」
と聞いたときにきかせてくれた話。
3年も立ち直れなくて、ヤケクソで遊んでるときに、
彼女がユウヤ君のもとに戻ってきたらしい。
「やっぱりユウヤがいい、ってさ」
そりゃあそうだよ、私は思わず口にする。
「でもさ、結局またフラれた」
…多感な時期に痛すぎる思いしたんだね。
「で、また遊びまくった」

私は彼に出会ってまだ日も浅い。
でも、こうして昔話してくれる彼といて、
今の彼を形作ってきたモノをひとつひとつ知るにつけ、
わかるよ、そういうことだったんだね、と納得する。
そして、彼が味わってきた思いのひとつひとつが、愛おしくてたまらなくなる。

私も話す。
結婚してから、ユウヤ君に会うまでの長い時間を。
なんとなくはしてた、好きになれない母親の話もする。
そしたらユウヤ君は、急にマジな顔になった。
「でもさ、お前のおふくろさんになんかあっても、
俺は葬式とか行ける立場じゃねえしな」
びっくりした。
「来てくれる気とかあんの?」
ユウヤ君は当たり前だ、みたいな真顔で返す。
「だって、お前を産んでくれた人じゃん」
言われた瞬間、涙がつたった。

そうなんだ。
私は彼のこういうところが好きでたまらないんだ。
余計な理由なんていらない。
小賢しい理屈なんかわかんない。
だけど、ただ単純でまっすぐ。
親は大事にするもの。
子供は可愛がるもの。
男は家族を養うもの。

私はシンプルな男が好きなんだな。
多少格好つけるところはあってほしいけど、
必要以上に背伸びしない男。
不器用なくらいまっすぐな男。

ユウヤ君はいろいろモノを知らない。
だけど彼は、私なんかが知らない大事なモノを知ってる。
ホントに大切なモノがわかってる。
ユウヤ君みたいな人と一緒になってたら、
私の親に対する気持ちも、違ってたのかもしれないな。
そうも思った。

セックスレスの話もした。
「カミさんは『家族』だからしたくないんだって」
なんかわからないでもない。
女の人はそういう理由が多いのかもしれない。
「…でも、触れたいじゃん」
ユウヤ君がぼそっとつぶやく。
おんなじだ。
私もおんなじなんだよ。
わかりすぎるほど、私にはわかるよ。
そうなんだよ。
好きだから触れたいんだよ。
相手の身体を、全部この手で感じたいんだよ。
でも、かなわない。
最初に感じた気持ちは正しかった。
私達はやっぱり同類なんだ。

何杯もビールをおかわりしながら、ずっとずっと話し続けた。
会ってセックスしなかったのは、初めてだった。


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