030-アツシ。

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ネットで相手探して、会ったりしたことある人、多いよね。
ただ、過程は楽しいけど、実際に会うのはリスクもある。
特に期待が大きかったときは、ダメージが…。
当然だけど、続けていると自己嫌悪に陥る。

〈ワタシ、いったい何やってんだろ?〉

〈こんな思いまでしてセックスしたいの?〉

けれども、どこかで信じていた。
絶対に出会える。
「この人!」
そう思える人に…。

それまでは、メッセージをくれた人とやり取りして、会っていた。
でも、やっぱり自分から積極的に探さないと。

気持ちを切り替えて、あちらこちらのプロフィールを覗いてみた。
ペンネーム、自己紹介、アプリ、つぶやき。
一人一人の個性が、ものすごく良くわかる。

そんな中、あるプロフィールに目が止まった。
たいしたことが、書いてあるわけではなかった。
ハンドルネームも、なんかまったりしてる。

でも読んだ瞬間、私はメッセージを打っていた。
こんなことは初めてだった。

直感が働いた。

アツシさん。
9歳下の家電メーカーの営業マン。
既婚で、お子さんが3人。

連休中だったせいか、返事はすぐに来た。
文章もきちんとしていて、それがやたら嬉しかった。

何度かやり取りを重ねて、瞬く間に距離が狭まってゆく。
かつてないくらいの速さだった。

アツシさんも、長くセックスレスらしい。
奥さんとの仲もあまりうまくいっていない。
けれど、離婚とかは考えていないという。
正直にいろいろ打ち明けてくれるところも、好感が持てた。

送ってくれた写真は外回りの仕事らしく、日焼けしていて精悍だった。
私の写真も、なぜだか気に入ってもらえたみたいだ。

《もしも、初めて会ったとき、僕のことも気に入ってもらえたら、
ミオコさんのこと、抱きしめてもいいですか?》

その言葉が、涙が出るくらい嬉しかった。

私も抱きしめて欲しかった。

みんな、誰かを抱きしめたかったり、抱きしめてほしかったり。
けど結婚していたとしても、相手とセックスレスなら、それは叶わない。
お互いの身体の温もり感じたくても、行きずりの誰かに頼めない。
お金を払う関係では、心からは満たされない。

私もアツシさんに抱きしめて欲しかった。
一刻でも早く。

そして、初めてのメールから一週間。
私はアツシさんに会った。

アツシさんは、笑顔の優しい人だった。
第一印象は、なにかスポーツしてたのかな?だった。
聞くと、ずっと野球をしていたと言う。

ホテルの部屋に入ると、本当に嬉しそうに私を抱きしめてくれた。
それだけで、心底嬉しかった。

メールで約束していた通り、ビールで乾杯して。
私の着ているものを、丁寧に脱がせてくれて。
一緒にシャワーを浴びて。

キスする。
アツシさんの唇は柔らかかった。
私の唇をついばむように、長くて深い、優しいキスだった。

〈そう、キスってこういうものだったんだ〉
私は、本当に幸せな気持ちになった。

アツシさんのセックスは、素敵だった。

けど、私が一番驚いたのは、彼が私の希望を聞いてくれること。
古い人間だから、そう思うのかもしれないけど、
なんとなくセックスって、男の人主導でするもの、って思ってた。

でも、アツシさんは、私の気持ちを確かめる。

「ミオコさん、どんなふうにフィニッシュしたい?」
「正上位?バック?」

そんなこと聞かれたことないから、答えに困る。

「…どっちでも」

セックスしてる最中も、相手の様子を気遣う。

「ミオコさん、疲れた?休む?」

私がうなずくと、すぐに休息をとってくれる。

二人で、ビールを飲み、一服しながら、いろいろな話をする。

アツシさんは、若い頃相当遊んだんだみたい。

「何人くらい?」
「わかんない。覚えてないくらい」
「すごいね」
「テレクラとか、ゲーム感覚ではまってたこともあったし

男の人が羨ましくなる。
今はそうでもないけど、女がそういうことする場は、圧倒的に少ない。

「彼女がいない夏とか、すれ違う薄着の女性にも欲情してたよ」
笑いながら、なんか爽やかに言う。

そうなんだ。
アツシさんって、たぶん性欲すごく強くて。
だけど、外見の爽やかさと、カラッとした明るさで、いやらしさが全然ない。

こんなふうな男もいるんだなぁ。
私には、なにもかもが新鮮だった。

お互いの仕事のこと、家庭のこと、話も尽きない。

「あっ、もうこんな時間だ」

笑いあって、も一度ベッドに戻る。
二人とも、人間からケモノに戻って求めあう。

セックスって、こういうモノだったんだぁ。


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